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サントリーホールのホールオペラと言えば、ホールの看板企画。昨年からはモーツァルトの「ダ・ポンテ三部作」の上演がスタートした。その第2弾となる《ドン・ジョヴァンニ》が間もなく幕を開ける。その指揮台に立つのは、シリーズの“シェフ”であるこの人。目下、イタリアの指揮者の中で最も注目を集めるホットな指揮者だ。音符として書き留められた作曲者の歌こころを、五感に訴える音楽として我々に伝えてくれるという意味で、彼ほどの指揮者もいない。そのタクトの元で音楽は自在に呼吸し、その濃密な空気が舞台を支配していく。
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――― このところアメリカでの仕事が続いていますね。

そうですね、ちょうどアトランタに到着したところです。アトランタ交響楽団と今週末にコンサートがあって、来週はサンフランシスコ交響楽団とのコンサートで、その後、サントリーホールの「ドン・ジョヴァンニ」のために日本に行きます。楽しみなプロダクションで、今からもうワクワクしてます。




――― サンフランシスコといえば、マエストロはこの2009年の秋からサンフランシスコ・オペラの音楽監督に就任しますね。

サンフランシスコはとても生活しやすい町で、オペラハウスも、アメリカ一の伝統を持っているんです。あの格調高いオペラハウスの建物は、日本は戦後の1952年に講和条約にサインして独立した場所でもあります。

そういう格調のある仕事場ですから、そこで落ち着いて、じっくりとオペラの仕事に取り組みたいです。イタリア物のレパートリーはもちろんですが、ドイ物についても、一シーズンに一本は自分で指揮しようと思っています。




――― そういえば、1月には、ロンドンのロイヤル・オペラで「トゥーランドット」を指揮して、本当にセンセーショナルな大成功を収めましたね。イギリスの新聞がどれも、「このような劇的かつ繊細なこの作品の上演を聞いたことがないとか」と書いていて、最高の賛辞でしたね。ああいう時は気分がいいでしょうね?

もちろん(笑)。私はロンドンが好なんです。あのオペラハウスはとても仕事がしやすくて、仕事だけに集中できるからいい成果が上げられます。




――― ところで、日本ではサントリーホールの看板企画であるホールオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を指揮します。昨年から始まったダ・ポンテ三部作の第2弾ですが、昨年の第1弾「フィガロの結婚」は、演出と音楽の面で大変な評判となりました。

本当にありがたい話ですね。でも、ひょっとするとあのプロダクションを一番楽しんだのは、この私じゃないかな?(笑)。というのも、自分が頭に描いていた「フィガロ」を、始めて上演することができたからです。

まず、私が子供の頃から映画やTVや舞台を観て大ファンだった、イタリアの大俳優兼演出家のガブリエーレ・ラヴィアと一緒に仕事が出来たのですから、これ以上の感激はありません。まさかこの人と一緒に仕事が出来るなんて、ということ、皆さんもありますよね!

彼が引き受けてくれた時は、今でも信じられないくらいうれしかったですね。しかも、ダ・ポンテとモーツァルトの三部作を全部引き受けてくれたのですよ!! よく時間を作ってくれたと思います。

第一作目の「フィガロ」で、既に彼の芸術の真髄が、演出家としての能力が、くまなく発揮されていたと思います。あと2作品、彼と一緒に仕事ができると思っただけで、人生がバラ色になります。




――― 「フィガロ」では、レチタティーヴォ(台詞)の部分を、マエストロが自らフォルテ・ピアノという楽器を弾きましたが、あれがまた物凄く面白かったですね。

作曲家や指揮者がアドリヴを入れて演奏するのは、モーツァルトの時代のスタイルですから、ああいったことは当然です。

アリアの部分は声や音楽の美しさを聴かせるのが主ですが、ドラマの進行はすべてこの台詞にかかっています。特に、この三部作が音楽史上画期的だったのは、それまでは往々にして音楽が先にできていて、それに台詞をつけるという作業だったのですが、モーツァルトはまずダ・ポンテの台詞が出来上がってから、それに相応しい音楽を作曲していったのです。それも、通奏低音だけではなく、台詞に始めてオーケストラ伴奏を付けたのです。モーツァルトがいかに、ダ・ポンテの台詞を大事にしていたかがわかります。

楽器のことですが、よくチェンバロで演奏する人がいますが、台詞の部分にオーケストラを使ったくらいの考えを持っていたモーツァルトが、本当に強弱のないチェンバロを使ったのだろうかと、私はいつも疑問に思っていました。それで、サントリーホールの真鍋プロデューサーと一緒にウィーンの楽友協会まで当時のことを調べに行ったんです。

そこで専門家のビーバ博士に初演の時の絵や資料を見せてもらい、さらに地下の楽器庫に行って、当時の楽器を実際に弾かせてもらって、「これだ!」と確信したのがフォルテ・ピアノでした。ビーバ博士も、モーツァルトが使用した楽器は97%位の確立でフォルテ・ピアノだったと語っていました。




――― 今までのホールオペラは、オーケストラが客席の近くで、客席の方を向いて座っていましたが、「フィガロ」では反対にオーケストラが舞台の奥で、客席の反対を向いて座っていたのがまた、画期的でしたね。

私が指揮をしながらフィルテ・ピアノを弾く時に歌手の動きがわからないと、入りもわからないし、合いの手を入れられないでしょう? 舞台は生き物ですから、歌手の動きも必ず毎日、微妙に違います。ですから私のアドリヴも、動きに合わせ、かつその場の雰囲気にも合うように毎日変えたんです。どうですか、違っていたでしょう? その意味でも、こちらは毎日大いに楽しませてもらいました。(笑)




――― ホールオペラの面白さはどこになりますか?

今のいわゆる歌劇場は、オーケストラ・ピットが聴衆と舞台を20メートル近くも切り離しています。ホール・オペラの最大の功績は、18世紀のモーツァルトの時代と同じく、オーケストラと演じる俳優、歌手、そして舞台全体を、再び聴衆に近づけたということだと思います。モーツァルトが演奏し指揮していた頃、彼はオーケストラを聴衆の目から隠そうなどとは思わなかったはずです。

サントリーホールで演奏を聴くことの特別の喜びは、演じる人の息遣いを肌で感じられること。そして演奏家にとっての喜びは、音楽の感動を聴衆と共有するということにほかなりません。18世紀のモーツァルトの音楽を奏でるのに、聴衆と舞台が極めて近いサントリーホールほどふさわしい場所はないと、私は確信しています。このように、演奏者と聴衆の双方が、一つの音楽ドラマを共に体験できる素晴らしい空間がホール・オペラなのです




――― さて、今回の《ドン・ジョヴァンニ》ですが、まずは今回のキャスティングの面白さから聞かせてください。

毎回、キャストは真鍋プロデューサーと二人で決めています。まずは主役の<ドン・ジョヴァンニ>は、前回の《フォガロ》で<伯爵>を歌ったマルクス・ヴェルバを起用しました。実は昨年の<伯爵>ついては、私自身は、最後までいい歌手を見つけることが出来なかったのです。それでプロデュサーが彼を選んでいてくれたのです。

そんなわけで、私は練習が始まるまで彼に会ったこともなく声を聴いたこともなかったのですが、練習を進めて行くうち、彼の音楽性、基礎の確かさ、イタリア語の完璧さ、演技力、すべてが気に入りました。中でも感情を声で表現できること、それにおいては往年のフィッシャー・ディースカウみたいです。ラヴィアも彼の役者にも劣らない演技力に大満足していました。

そんな具合だったので、《フィガロ》を練習している時点で、彼を<ジョヴァンニ>にしたいという話が自然発生的に盛り上がったんです。幸いにも、彼のスケジュールも調整できたので、彼に決まったのです。あの甘い二枚目のマスクも、いいでしょう? 彼に誘惑されると誰しもが“抵抗しがたい”、そう女性に思わせるのに、ぴったりでしょう?(笑)




――― <レポレッロ>はどうですか。

<レポレッロ>をよく、“滑稽な役”と見立てる場合がありますが、私はそうは思いません。彼は<ジョヴァニ>というエレガントな貴族の従者ですから、それなりに頭がよく、機転が利き、それでいて盲従するのではなく、主人への反抗心も持ち合わせている男です。

そんな意味で、今回のマルコ・ヴィンコは、声も人格も、私のイメージする”レポレッロ“に相応しい立派な歌手です。後の男声二人も、声の面でも役者としても実に役柄にピッタリの人達がそろったものだと思います。ラヴィアは、映画俳優みたいな歌手がそろったと、大満足です。




――― 女性陣はどうですか?

女性陣3人は、私がよく知っている歌手たちですが、彼女たちのそれぞれの性格を知れば知るほど、これがまた面白いくらい、3つの役柄、<ドンナ・アンナ>、<ドンナ・エルヴィーラ>、<ツェルリーナ>にピッタリなんです。それは観て、聴いてからのお楽しみということです。

中でも<エルヴィーラ>を歌う増田朋子さんは、2005年にホールオペラ《ラ・ボエーム》で素晴らしく感動的な<ミミ>を歌いましたが、彼女のコロラトゥーラのテクニックは際立っていますから、今回の<エルヴィーラ>にはぴったりです。昨年の《フィガロ》に<マルチェリーナ>で出演して話題をさらった牧野真由美さんと同じく、日本で今回、話題沸騰すると思いますよ。

モーツァルトの初演の時の歌手たちは、<ジョヴァンニ>は22歳と、とても若かった。今回のキャストも父親役の<騎士長>を除いて皆若く、モーツァルトがいたらきっと、狂喜乱舞して喜ぶキャストになったと思います。




――― 音楽的に《ドン・ジョヴァンニ》の特徴はどんなところにありますか?

私は音楽家として、この作品はモーツァルトの天才性が特に際立っているものだと思います。「フィガロ」から1年半しかたっていないというのに、この作品は既に、古典派からロマン派への移行を楽に成し遂げているのです。その劇的表現は、ドロンボーンを伴って、既にベートーヴェンの世界に入っていると思います。

オーケストラの音も極めて幅が広くなっていて、和音もそれまでにないものが入っている。“時代へのプロテスト”というモーツァルトの精神が極めてはっきりと表現されている入魂の作品だと思います。演出家のラヴィアは、そのあたりも含めて《ジョヴァンニ》という作品は、当時一般の精神文化の100年先を行っていたと述べています。




――― ラヴィアさんの演出も楽しみですね。

「ジョヴァンニ」演出の一番の難しさは、舞台という現実の場にいかに四次元世界を表現するかということだそうで、その舞台装置をサントリーホールに作ることはさらに難しい、と彼は言っています。前作「フィガロ」では貴族達の壊れた肖像画を舞台に敷き、その上を登場人物が土足で走り回るという切り口が斬新でしたが、今回もまたまた画期的なアイデアを出してくるでしょう。

聞いている話だと、モノトーンの舞台装置の中に、真っ赤なレザーの長いコートをはおり、ハイ・ブーツを履いた“抵抗しがたい世紀の色男”のジョヴァン二が登場するようです。世阿弥の「花伝書」に心酔し、自らが演技者であるからこそ言えるラヴィアですから、私も今からどんな舞台になるかと、興奮しています。

では、See you very soon in Japan!






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Nicola Luisotti
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イタリアのトスカーナ地方、ヴィアレッジョ生まれ。隣町でプッチーニの生地でもあるルッカのボッケリーニ音楽院で作曲、ピアノ、トランペット、声楽を専攻。その後、指揮法をピエロ・ベッルージに学び、最優秀の成績で音楽院を卒業した。1989年からミラノ・スカラ座の指揮スタッフとなり、2001年にはヴェローナ音楽祭で《ナブッコ》を指揮してアレーナでのデビューを飾る。02年、《オベルト、ボンファチオ伯爵》を指揮してミラノ・スカラ座にもデビュー。その後、パリ国立オペラ、バイエルン州立歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ロイヤル・オペラ、ウィーン国立歌劇場の指揮台に登場、次々に成功を収める。日本では04年、サントリーホールで《トスカ》を指揮して鮮烈なオペラ・デビューを飾り、05年からサントリーホールのホールオペラ「プッチーニ・シリーズ」を一人で指揮。05年には「愛・地球博」で《蝶々夫人》も指揮している。コンサートの指揮者としても世界的に注目を浴び、ベルリン・フィルの定期演奏会の指揮台にも登場、日本でもNHK交響楽団、東京交響楽団を指揮している。09年から5年間、サンフランシスコ・オペラの音楽監督に就任。イタリア系の指揮者の中でその活躍が世界で最も注目されている指揮者。
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  公演公式サイト
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